岩槻は「さいたま市で最も地味」を返上できるか？
人形の街の歴史と再開発の未来

「さいたま市で家を探してるんだけど、岩槻ってどうなの…？」お客様との打ち合わせで、この質問が出ると、私はいつも少しだけ身構えてしまいます。浦和の文教、大宮の商業、新都心の先進性…。そんなスター選手が揃うさいたま市の中で、岩槻区が「地味」「古い」という印象を持たれているのは、悲しいかな事実でしょう。実のところ、宅建士になりたての頃の私も、この街の価値を完全に見過ごしていました。しかし、知れば知るほど、その奥深い歴史と、今まさに動き出した未来への胎動に、心が震えるのです。

CONTENTS

眠れる獅子か、過去の遺産か。城下町・岩槻のポテンシャル

岩槻の現在地を語るには、まずその成り立ちを知らねばなりません。この街には、他の区にはない、圧倒的な「歴史の蓄積」があります。それは時に「古さ」と見られますが、見方を変えれば、お金では決して買えない「本物の風格」と言えるのではないでしょうか。

なぜ「人形の街」に？歴史が紡いだオンリーワンの価値

岩槻が人形の街として栄えたのには、明確な理由があります。江戸時代、日光東照宮の造営に参加した職人たちが、その帰り道に岩槻に立ち寄り、人形作りを伝えたのが始まりとされています。この地は、人形の材料となる桐の産地であり、良質な水にも恵まれていました。そんな歴史的背景から、今もなお全国トップクラスの節句人形の生産地として、その伝統技術を守り続けているのです。駅前に降り立つと、人形店が軒を連ね、街全体がしっとりとした伝統工芸の香りに包まれています。これは、他のどんな街にも真似のできない、岩槻だけのアイデンティティです。

静寂の中に価値あり。城下町の面影を歩く

駅から少し歩けば、かつての岩槻城の跡地に広がる「岩槻城址公園」があります。空堀や土塁が残り、赤い八ツ橋が美しいこの公園は、市民の憩いの場。そして、街なかには今も時を告げる「時の鐘」が佇んでいます。こうした歴史の断片に触れながら暮らせる環境は、日々の喧騒に疲れた心に、穏やかな時間をもたらしてくれるはずです。正直に告白しますと、以前、お客様に「もっとキラキラした街がいい」と言われ、うまく岩槻の魅力を伝えられなかった苦い経験があります。しかし今なら言えます。「この静けさこそが、贅沢なのですよ」と。

ついに動き出した！再開発が描く「新しい岩槻」の設計図

そんな歴史深い街が、今、大きな変革の時を迎えています。長年の懸案だった東武野田線（アーバンパークライン）「岩槻」駅前の再開発事業が本格的に始動し、街の風景は目に見えて変わり始めています。これは、単なる建物の建て替えではありません。岩槻の未来を左右する、一大プロジェクトなのです。

駅前が変わる、暮らしが変わる。「WATSUROJI」誕生の意味

2024年、駅東口に誕生した商業・業務・住宅の複合施設「WATSUROJI（ワツロジ）」。スーパーマーケット「マルエツ」やクリニック、子育て支援センターなどが入居し、駅前の利便性は劇的に向上しました。さいたま市の公式発表によると、この再開発は、にぎわいの創出と定住人口の増加を目的としており、総事業費は数十億円規模にのぼります。これは、行政が本気で岩槻の未来に投資している証拠です。これまで「駅前に何もない」と言われがちだった岩槻にとって、この変化はまさに黒船級のインパクトと言えるでしょう。

出典：さいたま市公式サイト「岩槻駅周辺地域整備基本計画」

道路網の進化。車社会の快適性が未来を拓く

もう一つの大きな変化が、道路インフラの整備です。国道16号のバイパス機能を持つ「東埼玉道路」の延伸計画や、高速道路へのアクセス向上は、車を主な移動手段とするファミリー層にとって、非常に大きなメリットとなります。これにより、東北自動車道「岩槻IC」をハブとして、県内はもちろん、県外へのアクセスも格段にスムーズになります。「岩槻は電車が不便だから…」という声に対し、「これからは車の時代ですよ」と、胸を張って言えるだけの根拠が、今まさに形になろうとしているのです。

よくある質問（Q&A）

正直、都心への通勤は大変じゃないですか？

はい、浦和駅や大宮駅と比較すれば、時間はかかります。東武アーバンパークラインで大宮駅まで約15分、そこから乗り換えとなります。しかし、大宮駅まで出てしまえば、選択肢は無限大。また、都心まで座って通勤したいというニーズから、始発・終着となる「七光台」行きや「岩槻」止まりの電車を狙うという裏技もあります。リモートワークが中心で、出社が週に数回という方なら、十分に許容範囲ではないでしょうか。

不動産価格は、再開発で上がってしまいますか？

すでに上昇傾向は見られますが、宅建士としての見解を述べると「まだ本格的な上昇はこれから」だと考えています。再開発の全貌が明らかになり、その利便性が広く認知されれば、価格はさらに動く可能性があります。つまり、今このタイミングで検討することは、将来的な資産価値という観点からも「賢い選択」になり得るのです。