不動産売却時に注意したい「囲い込み」について、詳しく解説していきます。 最近、不動産業界で問題となっているこの課題について、経験豊富なFP宅建士の立場からわかりやすく説明していきます。
「囲い込み」の説明の前に、媒介契約について知る必要があります。まだご存知無い方はこちらの記事を先にご覧になってください。
媒介契約:不動産を売却する際、不動産仲介業者に依頼します。その際に交わす契約のこと
不動産の囲い込みとは?
不動産の囲い込みとは、不動産仲介会社が売主様と専任媒介契約を結び、その物件情報を公開せず非公開にして、自社だけで取引を成立させようとする行為のことです。
簡単に言えば、次のような状況です:
- 不動産仲介会社Aが、田中さんの家を預かって売却することになりました
- 本来ならば、他の不動産仲介会社とも情報を共有して、より良い買主を探すべきです
- でも不動産仲介会社Aさんは、自分の会社だけで売りたいと考えています
- そのため、他の不動産会社には情報を出さず、自社のお客様にだけご案内します
このように、物件情報を独占して取引を進めることを「囲い込み」と呼びます。
売主にとっては物件の露出が限られ、多くの潜在的な買主に見てもらえないというデメリットがあります。
一方で、囲い込みを行う不動産仲介会社にとっては、取引の全てを自社で行うことができるため、高い仲介手数料を売主からも買主からも得ることができます。業界用語で「両手取引」といいます。
なぜ問題なの?
囲い込みが問題視される理由は、主に以下の点にあります。
- 売主様の利益が損なわれるう可能性が高い
- より良い条件の買主に出会う機会を逃してしまう
- 売却価格が本来の市場価値より低くなりやすい
- 売却までの時間が長いことがある
- 公正な取引の阻害される
- 市場の透明性が薄れる
- 健全な競争が阻害される
囲い込みの違法性
日本において、不動産の囲い込みは法律違反となる場合があります。不動産業法では、不動産仲介業者が物件情報を適正に公開することが求められており、囲い込みはこれに反する行為です。違反が発覚した場合、不動産仲介業者は営業停止や罰金などの厳しい処罰を受ける可能性があります。
1. 明確な違反行為
- レインズへの未登録や登録遅延
- 虚偽の情報登録
- 他社からの照会への対応拒否
- 成約情報の未報告
2. グレーゾーン
- 意図的な販売情報の制限
- 不当な価格設定
- 買主との直接交渉の制限
- 他社の仲介排除
国の対策:不動産の囲い込みへの解決
国も、この囲い込みの問題を重要視して様々な対策を講じています。
1. 法律による規制
宅地建物取引業法では、専任媒介契約を結んだ場合、不動産会社に次の義務を課しています:
不動産業者に対して物件情報を共有する義務を強化する法律を制定したり、違反した場合の罰則を厳しくしたりすることが行われています。
- 指定流通機構(レインズ)への物件登録義務
- 登録から5日以内に物件情報を公開すること
- 成約情報の報告義務
- 定期的な業務処理状況の報告義務
2. 指導・監督の強化
国土交通省や各都道府県の宅地建物取引課では:
- 定期的な立入検査の実施
- 次回業者への行政指導
- 重大な猶予への業務停止命令などの処分
- 消費者への啓発活動
3.公正取引委員会が監視を強化
消費者が安心して不動産取引を行えるように、公正取引委員会が監視を強化し、不正行為を摘発する取り組みも行われています。
大手不動産会社に囲い込みが多い理由
囲い込みが特に大手不動産仲介業者に多い理由は、彼らがより多くの物件情報を持っているからです。大手仲介業者は、多くの物件を取り扱うことで市場における影響力を強化し、その結果として囲い込みを行う余地が大きくなります。さらに、大手仲介業者は広告やマーケティングに多額の費用をかけることができるため、独自に顧客を集客する力も持っています。
1. ビジネスモデルの特徴
- 豊富な顧客データベースを持っている
- 自社で買取りから一般売却までできる資金力がある
- グループ会社での取引を目指している
2. 営業方針の影響
- 社内での取引を推奨する評価制度
- 営業担当者のノルマプレッシャー
- 他の不動産仲介会社との競争を避けたい
3. 経済的メリット
- 仲介手数料を売主、買主からと独占できる
- 買取り時の価格交渉で有利
- 一般売却時の利益確保が確実
売主様ができる囲い込み対策
不動産の売却を希望する売主様が囲い込みに気づくためには、いくつかのポイントに注意することが重要です。例えば、特定の業者のみが物件を取り扱っている場合や、物件情報が他の業者に共有されていない場合は、囲い込みの可能性があります。
では、売主様はどのように「囲い込み」をされないように注意したらよいでしょうか?
1.査定時の注意
次の不動産仲介業者は避けましょう。
- 契約を急がせる
- 競合他社の評価を強く否定する
- 一般売却ではなく、自社での買取りを強く推奨する
- 自社の販売網だけで売れることを強くアピール
- 契約内容の説明が曖昧
- 査定価格が過去の事例とかけ離れている
- 査定書が本旨とずれて情報が多すぎる
2. 媒介契約時の注意点
- 契約内容をしっかり確認する
- 専任媒介契約の期間は3ヶ月が標準
- 媒介契約書の内容を理解する
- 疑問点は必ず質問する
- 過去の取引事例を振り返る
- 地域の相場観を把握する
3.媒介契約後のチェックポイント
- レインズへの登録状況を確認
- 定期的な経過報告を要求
- 比較からの問い合わせ状況を確認
- 価格変更の提案内容をチェック
4.売出中のチェックポイント
- レインズ登録の確認を倹む
- 他社からの問い合わせや案内が極端に少ない
- 価格交渉が一方的
5.一般媒介契約を結ぶ
不動産仲介業者の囲い込みを確実に防げる方法が、一般媒介契約を結んで売却活動を行うことです。
一般媒介契約の特徴は以下の通りです。
契約期間の制限なし: 特に契約期間の制約はありません。
複数の仲介業者に依頼可能: 依頼者は複数の仲介業者に依頼することができるため、広範囲に情報を流通させることができます。
自己仲介も可能: 依頼者自身が直接取引相手を見つけることも認められます。
報告義務なし: 仲介業者には特定の報告義務がないため、進捗状況の報告はあまり期待できません。
一般媒介契約を結んで売却活動を行うことで、複数に依頼することが可能です。
一般媒介契約を締結した不動産仲介業者は、自社で契約ができないと手数料収入は発生しません。
その為、競い合って販売を行うことになります。
現在は、インターネットに広告を掲載することで、購入希望客を探すのが主流です。
この方法ではコストもかからないため、小さな会社でも、大きな会社でも会社の規模による大きな差はなく売却することが可能です。
囲い込みができないので、早く売却することも可能です。
注意点として、必ず複数社に依頼することが重要です。1社ですとレインズへの登録義務がないため囲い込みと同じ結果になってしまいます。
デメリットとして、不動産仲介業者が複数になるため、窓口となる自身の負担が大きくなります。またあまり多く同じ物件がネットに掲載されると、売れない物件の印象を付けてしまいます。おすすめは異なるタイプの2社で多くても3社までにすると良いかと思います。
要旨:適切な不動産取引のために
不動産の囲い込みは、売主様の利益を損なう可能性のある行為です。
自身の大切な資産を守るために適切な知識を身に着けます。
囲い込みに対する対策として、消費者自身が情報をしっかりと収集することが重要です。例えば、複数の不動産業者と連絡を取り、同じ物件についての情報を比較することで、囲い込みの兆候に気づくことができます。また、不動産業界の口コミや評判を確認し、信頼できる業者を選ぶことも重要です。無理な要求には応じず必要に応じて専門家にご相談することをおすすめします。
まとめ
最後に、不動産取引は人生の大きな決断の一つです。 焦らず、慎重に、そして適切な情報を得た上で判断することが重要です。 この記事が、皆様の正しい不動産取引の一助とできれば幸いです。
トラブルが発生した場合は、各都道府県の不動産適正取引推進機構や消費者センターに相談することができます。これらの機関では専門家による助言やあっせんなどの無料サポートを受けることができます。