はじめに
不動産売却時に注意したい「囲い込み」について、詳しく解説します。最近、不動産業界で問題となっているこの課題について、経験豊富なFP宅建士の立場からわかりやすく説明します。
「囲い込み」の説明の前に、媒介契約について知る必要があります。まだご存知でない方は関連記事をご覧ください。
媒介契約:不動産を売却する際、不動産仲介業者に依頼するときに交わす契約のこと
不動産の囲い込みとは?
不動産の囲い込みとは、不動産仲介会社が売主様と専任媒介契約を結び、その物件情報を公開せず非公開にして、自社だけで取引を成立させようとする行為のことです。
簡単に言えば、次のような状況です:
- 不動産仲介会社Aが、田中さんの家を預かって売却することになりました
- 本来ならば、他の不動産仲介会社とも情報を共有して、より良い買主を探すべきです
- でも不動産仲介会社Aは、自分の会社だけで売りたいと考えています
- そのため、他の不動産会社には情報を出さず、自社のお客様にだけご案内します

このように、物件情報を独占して取引を進めることを「囲い込み」と呼びます。売主にとっては物件の露出が限られ、多くの潜在的な買主に見てもらえないというデメリットがあります。
一方で、囲い込みを行う不動産仲介会社にとっては、取引の全てを自社で行うことができるため、高い仲介手数料を売主からも買主からも得ることができます。業界用語で「両手取引」といいます。
レインズ登録と媒介契約:不動産会社の重要な義務
「不動産の囲い込み」を理解するためには、レインズの仕組みについて把握しておく必要があります。
レインズとは
レインズとは、「不動産流通標準情報システム」の略称で、国土交通大臣から指定を受けた不動産流通機構が運営する不動産物件情報交換システムです。このシステムにより、加盟している不動産業者間で物件情報を共有し、スムーズな取引を実現しています。国内で不動産取引業を営むには加盟が必須条件です。

媒介契約とレインズ登録義務
不動産会社が売主様や貸主様と専任媒介契約または専属専任媒介契約を結んだ場合、法律(宅地建物取引業法)によって、その物件情報をレインズに登録する義務が生じます。
- 専任媒介契約の場合:契約締結から7日以内に登録
- 専属専任媒介契約の場合:契約締結から5日以内に登録
これは単なる業界ルールではなく、宅建業法に定められた法的義務です。一般媒介契約の場合は登録義務はありませんが、多くの不動産会社は積極的に登録を行っています。
レインズ登録の重要性
レインズ登録には以下のような重要性があります:
- 売却・賃貸の機会拡大:全国の不動産会社がアクセスできるため、多くの潜在的買主・借主にリーチできます
- 取引の透明性確保:市場価格の形成や取引の透明性向上に貢献します
- 成約率向上:多くの不動産会社が協力することで、成約の可能性が高まります
- 法令遵守:専任・専属専任媒介契約の場合は法的義務です
不動産会社の問合せ対応義務
レインズに登録した物件に関して、他の不動産会社から問合せがあった場合、登録した不動産会社には以下の対応義務があります:
- 迅速な返答:専属専任媒介契約の場合は24時間以内、専任媒介契約の場合は48時間以内
- 正確な情報提供:物件の現状や条件について正確に伝える必要があります
- 案内予約への対応:他社からの内見希望に対して適切に対応する必要があります
- 成約情報の更新:商談状況や成約した場合は速やかに情報を更新する義務があります
「囲い込み」はなぜ問題なのか
囲い込みが問題視される理由は、主に以下の点にあります:
- 売主様の利益が損なわれる可能性が高い
- より良い条件の買主に出会う機会を逃してしまう
- 売却価格が本来の市場価値より低くなりやすい
- 売却までの時間が長くなることがある
- 公正な取引が阻害される
- 市場の透明性が薄れる
- 健全な競争が阻害される
不動産の「両手取引」について
不動産取引において「両手取引」とは、一つの不動産会社が売主(貸主)側と買主(借主)側の両方から仲介手数料を得る取引形態を指します。この方法では、不動産会社は取引の両側から報酬を得るため「両手」と呼ばれています。
片手取引

両手取引

両手取引のメリットとデメリット
不動産会社側のメリットとして、一つの取引で二重の仲介手数料が得られることや、情報共有や交渉がスムーズに進められる可能性があります。また、自社で完結するため取引を管理しやすい利点もあります。
一方、消費者側のデメリットとしては、利益相反の問題が生じる可能性や、売主・買主それぞれの最善の利益のために動いているか疑問が残ることが挙げられます。より良い条件の買主や物件が存在しても紹介されない可能性もあります。
囲い込みの違法性
日本において、不動産の囲い込みは法律違反となる場合があります。不動産業法では、不動産仲介業者が物件情報を適正に公開することが求められており、囲い込みはこれに反する行為です。違反が発覚した場合、不動産仲介業者は営業停止や罰金などの厳しい処罰を受ける可能性があります。
明確な違反行為
- レインズへの未登録や登録遅延
- 虚偽の情報登録
- 他社からの照会への対応拒否
- 成約情報の未報告
2025年1月1日からの変更点
囲い込みは2025年1月1日から指示処分の対象になることが施行されました。
(4) 宅地建物取引業者が依頼物件を指定流通機構に登録した場合は、当該宅地建物取引業者から指定流通機構が発行する登録済証の交付を受けること等により、登録されたことを確認すること。
(新設)登録証明書の交付時における説明等について 宅地建物取引業者は、指定流通機構に物件を登録したときは、登録証明書を交付する際に、レインズのステータス管理機能を通じて当該物件に係る取引の申込みの受付に関する状況等の最新の登録内容が確認できることに関し、依頼者に対して分かりやすく説明を行うことが望ましい。
なお、宅地建物取引業者が専属専任媒介契約及び専任媒介契約に基づき指定流通機構に登録した物件について、当該物件に係る取引の申込みの受付に関する状況等の登録内容が事実と異なるときは、法第65条第1項の指示処分の対象となる。
囲い込みが見抜きにくい理由
売主・貸主が「囲い込み」に気づくのは極めて困難です。
例えば、ある不動産会社が「今週は他社のお客様をご案内します」と売主に伝えたとします。その中の一組が物件にとても好感を持ち、両親を交えて再度案内の予約をしたいと希望しているとします。
同時に、その不動産会社自身で新しく見学希望の顧客が現れたとします。この場合、不動産会社が自社で成約をまとめたいがために、他社の顧客による見学を意図的に遅らせることがあります。
例えば「売主様がその時間に買い物に出かけるので都合が悪い」と他社に伝えたり、「担当者に他の案内が入っていて、代わりの者もいないので1週間遅らせてください」と言ったりします。
こうした対応により、他社の顧客の見学機会が1週間ずれてしまいますが、売主・貸主はこれが本当に必要な対応だったのか確認する手段がありません。
売主様ができる囲い込み対策
査定時の注意点
次のような不動産仲介業者は避けましょう:
- 契約を急がせる
- 競合他社の評価を強く否定する
- 一般売却ではなく、自社での買取りを強く推奨する
- 自社の販売網だけで売れることを強くアピールする
- 契約内容の説明が曖昧
- 査定価格が過去の事例とかけ離れている
- 査定書が本旨とずれて情報が多すぎる
媒介契約時の注意点
- 契約内容をしっかり確認する
- 専任媒介契約の期間は3ヶ月が標準
- 媒介契約書の内容を理解する
- 疑問点は必ず質問する
- 過去の取引事例を確認する
- 地域の相場観を把握する
媒介契約後のチェックポイント
- レインズへの登録状況を確認する
- 定期的な経過報告を要求する
- 他社からの問い合わせ状況を確認する
- 価格変更の提案内容をチェックする
最適な解決策:一般媒介契約
不動産仲介業者の囲い込みを確実に防げる方法が、一般媒介契約を結んで売却活動を行うことです。

一般媒介契約の特徴
- 契約期間の制限なし:特に契約期間の制約はありません
- 複数の仲介業者に依頼可能:広範囲に情報を流通させることができます
- 自己仲介も可能:依頼者自身が直接取引相手を見つけることも認められます
- 報告義務なし:進捗状況の報告はあまり期待できません
一般媒介契約を結んで複数社に依頼することで、不動産会社が競い合って販売を行うことになります。現在はインターネットに広告を掲載することで購入希望客を探すのが主流なので、会社の規模による大きな差はなく売却することが可能です。囲い込みができないため、早く売却することも期待できます。
一般媒介契約の注意点
必ず複数社に依頼することが重要です。1社だけですとレインズへの登録義務がないため囲い込みと同じ結果になってしまいます。逆に、複数契約できることを説明せず1社の一般媒介契約を勧めてくる業者は、レインズに掲載せずインターネットだけに掲載して両手取引を狙っている可能性がありますので注意しましょう。
デメリットとしては、窓口となる自身の負担が大きくなることや、あまりにも多く同じ物件がネットに掲載されると「売れない物件」の印象を与えてしまう点があります。おすすめは異なるタイプの2社、多くても3社までにすると良いでしょう。
専任媒介契約は、一般的に契約期間が最大の3カ月間になっている場合がほとんどです。そのため、この期限内に売主都合で解約をすると、違約金を請求されてしまう可能性があります。契約期間の満了を待つか事前に特約で「媒介契約締結日から1カ月を経過した後は、売主からの解除を無条件で可能とする」の1文を入れて貰いましょう。
まとめ
不動産取引は人生の大きな決断の一つです。焦らず、慎重に、そして適切な情報を得た上で判断することが重要です。この記事が、皆様の正しい不動産取引の一助となれば幸いです。
トラブルが発生した場合は、各都道府県の不動産適正取引推進機構や消費者センターに相談することができます。これらの機関では専門家による助言やあっせんなどの無料サポートを受けることができます。